俺はまだ本気出してないだけ?
いざというときになったらきっと、なんとか出来る。
そう思っている人は多いのではないだろうか。
私も、そう思って生きてきた年月は長いと思う。まあ、若いころの「いざ」なんて受験とか試合とかそういうものが多いこともあって、どうにかなってしまうことも多いし、命の危険はないから、そういうことを思ったままでいられる人のほうが多いだろう。
「俺は本気出したら出来る」というのは、本気を出す機会もない、または本気を出すことを避けてのらりくらりと暮らしている人の決め台詞であって、本当はそんな力、出るわけないよと揶揄するのはネットの書き込みではよくあることだし、実は本気なんか出さなくても、それなりに暮らしていければいいという意見もネットではよく見る感じがする。
いざというのはいったいどんな時なのか。大震災とか大水害などの災害や、事故などの大怪我、病気、人間関係におけるトラブルや仕事での無理が引き起こすメンタルの問題。自分のことでないならば、家族の大怪我、病気、入院、介護、死亡……。
ストレスがかかりすぎると大抵の人は体とか心がうまく機能しなくなる。自分でそうなっているのね、と気が付けば対処も出来るのだけれど、例えば私の場合は「大丈夫大丈夫」と言いながらそのまま深みにはまり、眠れなくなって、そのままナチュラル・ハイのような状態になっていき、自分の状態に気づかないまま体も極限状態になって、そのまま心の状態も連動して悪くなって、周りの人が「絶対おかしい」と気づくぐらいになっても、まだ大丈夫と思っている……というようなことになってしまう。
周りの親しい人に言われて、心療内科に行ったときにはもう、まごうかたなく異常なところまで行ってしまっていると言われ、薬を飲んですべての活動をほぼ停止して休んでしばらくたってはじめて、「あー。あれは無理してたのかも」と気づくというのを何度か(一度じゃないところがちょっとひどい)やって、自分が実はストレス耐性がかなりないのでは…と実感することになったのは、中年になってからっていうの、どうなの、ほんと。
自分にストレスがかかっているのに気付くのが遅いし、気づいたときにはすでに手遅れみたいになっているとなれば、まず予防的にストレスがかからないように生活しなくてはならないのだということが今わかっただけでもまだマシ……と思っておくほかはない。
かっこ悪いんだよねえ、やっぱり。何かストレスがかかったら、そこからなるべく離れるという対処を取らなくてはならないのってさ。こんな年齢になっても、格好がつけたいのか、と言われるとちょっと恥ずかしいが、やっぱり、こう、「本気出したら最高峰」っていうのってかっこよくない?夢じゃない?ロマンじゃない?それを小説にしたのが、これ、 【ソードアートオンライン】。
主人公、キリトは命を懸けた勝負をしなきゃいけない世界に無理矢理突っ込まれて離脱不可能になるのだけれど、そこで自分を信じて、明日に希望を持ち、そして最高峰になってしまうという、そういうお話なのだった。
もちろん現実世界ではそれほど能力もない普通の男の子なんだけど、そこはそれ、違う世界に閉じ込められるので……その中では最高峰、と。その異世界とは、ゲームの中。それも出られないゲームの中ってところが、この物語の肝。
ネタバレはしないつもりのレビューなので細かいことは省くけれども、つまりこれは、「本気出したら俺って世界最強」を地で行く話だってこと。ゲーム内なのに現実の命もかかっているのもいい。
もちろん努力してもかなわないこともあるし、現実を見ろという意見もあるだろうし、世界最強だなんて寝言は寝て言えだろう。でも…。本気出したら最強というのは別に持っていて困る夢でもない。
まだ一度も起きていない本気の「いざとなったら」の「いざ」を怖がって慎重になりすぎるよりも、「いざ」が来た時も、きっと平気、本気出したら絶対いける!と思えるほうが健康にいいのではないだろうかと思う。私にはもう見られなくなった夢だけれども、このライトノベルを読む年齢の人たちにはその夢を持っていてほしい。
なんせ、本当の本気で「いざ」が来てしまったときは最弱or最強であろうが平均的であろうが対処するしかないから。だめなら心が折れて病むという結末になるだろうし、だめでないなら、「神様は耐えられない試練は送らない」というようなテキトウな言葉で説明されてしまう。耐えられる試練というのは、「まだ大丈夫レベル」という判定になってしまいやすい。そうなると「まだ本気出してなかったんじゃあ」ということに……?耐えられる試練と、耐えられない試練は、紙一重かもしれなくても。
何に、どれだけ耐えられるかということは個人によって違う。本当にこの小説みたいなことが起きたら……私は何百人かの人と一緒に死んでいただろうと思う。でも……でも。
今はこの小説を読んで、ああ、主人公かっこいい!と喜びたい。私もきっと戦えるのだと。この本を読む価値はその爽快感にある。
既刊が21巻とたくさんあるのだけれども、実は1巻だけ読んでもそこで完結でOKになっているので、1巻だけでもおすすめしたい1冊。
細かいエピソード集が2巻で、全く違う世界に入りなおしていく形で3巻から続くので、「あれはどうなったの?面白くないけどとりあえず結末は知りたい」とかいう風になっていないので構成としてはよく出来ている。
IFシリーズとでもいうべき「ソードアートオンライン プログレッシブ」という別シリーズの文庫も6冊まで既刊読了。
コミックスは読んでいないが、アニメと長編映画も見てしまった。
楽しみのために読む本で、別にこの本はためになるとか、教訓が学べるとか、そういうことではない。でもやっぱりおすすめしたい一冊。
コメント
すぐ負けを認めるし、負ける人がいないと勝つ人がいないしと思ってます。
子供とか、若い人には、ガンバレ!戦え!とは思うんですけどね。
頑張れないダメな人間の言い訳かもしれませんが。
てかとさんへ
長期戦すぎてダレたりとか、逃げ場がないことで心が病むとか…というときにどうするかが難しいなと思います。
これが本気じゃないという人が多いのも、要は瞬発的にはもっと力が出ることがあるからなんでしょうけど、ずっと出し続けるわけにもいきませんしね。緩急あるのが普通……なんだと思いたいところですが。
レツゴーさんへ
ただ一日、この場所で生き続けることを、それでいいのだと思えるのが一番気持ちに負担がかからなくていいなと思います。
確かにいろいろなことを達成できる人は素晴らしいと思います。でもそれが出来なくても、「あり」なんじゃないかなと思いたいなあと。
全員オリンピックなわけないですからね。
とはいえ、確かに子供には、「なるべく頑張って」と言いたいですね、そこは矛盾していると思います。
俺たちは人生という名のデスゲームで主人公をやっているものですが、
これは本気で遊んでいると真顔でいえると思います。
というか、だれも本気だしているはず。
テストがあるから、会議があるから、とかじゃなくて無意識に今が全力なのではないかと。
心臓もいつだって本気で鼓動をうっているのだから、どこにも手抜きなんてないんではないかと俺は考えています。
俺の場合、むしろぬるすぎるのではという指摘も甘んじて受けましょうw