森の生活
ケータイ電話が、まだあんまり普及していなかったころは、電波が届かない場所も結構あった。
今は、あんまりそういう場所は近くにないけれども、まだポケベルもあった、なんて頃は、県境までいくと「圏外」になったものだ。
*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…
こんな森の中のあずまやで、1日中本が読みたいな、と思う。
温かい紅茶と、毛布なんか持って、まあ、今よりもうちょっと温度が高いほうがいいかもしれないが、誰にも呼ばれずに、夕飯の支度のことなんか全然気にせずに。
暗くなって活字が見えなくなったら、本を閉じて立ち上がって、5分歩くと、家につく…なんていうのが理想なんだけど。
戸棚にパンがおいてあって、適当な野菜を切ってスープぐらいは作って…。紅茶か、ココアなんか飲んで。セントラルヒーティングなんかなくて、ストーブか、暖炉がある、そんな部屋。
小さいコテージぐらいのサイズの家で、2階にあがるとベッドがあって、ぐっすり眠れて、朝日で目が覚める。
こんな写真を見ると、理想がそのあたり…ということでよければ、今だってもちろんちょっと、それっぽくは出来る。
私が持っている持ち物のほとんどは、なくても大丈夫。本だって、もうね、ライトノベルなんかダメだ。そういう生活で読む本は、どうしたって名作でなければ。
ディケンズや、トウェインや、スティーブンソンなんかの軽いものでいいけど、木洩れ日の下で読むのにふさわしい、紙の本。ワーズワースの詩集や、ソローの「森の生活」が愛読書。
コーラじゃなくて、レモネードで、ゴアテックスではなくてウール。
そんなことを考えていると、なんとなく断捨離とミニマリストに人気があるのがわかる気がする。
自分の身の回りにわかるだけ、手の届くだけの暮らしをすること。音楽は録音を聞くのではない、聞きたくなったらもちろん自分で演奏するのだ。 セーターは寒くなる前に編み、買い物は週に1回。
あ、でも…水道はないと困るし、トイレはウォッシュレットでないとなあ…と思った瞬間、一気に現実に引き戻された。
無理だな…うん。
せめて、暖かい居間で、チェックの毛布でも膝にかけて本を読もう。
ココアでもいれて。